日本人間行動進化学会第6回大会 若手発表賞講評・受賞者からの声

講評

第6回 HBES-J の 若手発表賞は、ポスター賞については参加者からの投票結果も参考にしつつ、選考委員(清成透子、橋彌和彦、平石界、佐倉)による協議の結果、以下の方々となりました。受賞のみなさま、おめでとうございます!

選考にあたって重視したのは、「バランス」です。具体的には、学際性と堅実性のバランスがとれているか、理論と実証の両方に目配りが利いているか、高い独自性を先行研究からの流れの中に適切に位置づけることができているか──といった諸点を評価基準としました。

人間行動進化学がそもそも学際的な分野なのですが、視野の広い学際性と方法論の堅実性とは、ときに相反することがあります。両者のきわどいバランスを絶妙に保ちつつ、慎重かつ大胆に一歩を踏み出すことが、知的刺激に満ちた研究につながるのだと思います。そのためには自分の仕事の学問的な位置づけを客観的にできていることが必要で、それが理論と実証の両方への配慮、あるいは独自性と先行研究の関係の適切な定位に表れるのだと考えます。

口頭、ポスターとも本当に発表の質が高く、選考は難航を極めましたが、過去の受賞経歴も参照しつつ、最終的な結果となりました。受賞しなかった方々との差は、紙一重もないぐらいですから、次回以降、さらなるチャレンジを期待しています。

最後に、私事ながら一言。実は私(佐倉)、HBES-J が学会になってから参加するのは今回が初めてです。そのような人間が若手賞の選考委員長を務めるなど、おこがましいにもほどがあるのですが、清成さん、橋彌さん、平石さんのおかげで、どうにか大役を務めることができました。本当にありがとうございました。暖かくも厳しい学会の雰囲気、おいしいパンとお好み焼き、シャモジというとんでもない景品と共に、忘れがたい思い出となりました。

受賞者のみなさまの益々の御活躍を祈っております。

佐倉統

HBES-J 第6回大会 若手発表賞選考委員

  • 佐倉統(委員長)
  • 橋彌和秀
  • 清成透子
  • 平石界

受賞者からの声

若手口頭発表賞: 田村光平「東ユーラシアの文化構造」

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このたびは日本人間行動進化学会の若手発表賞を授与頂き,大変光栄に感じております.喜びと同時に過分な評価を頂いたことに対する畏れもあり,頂いた賞にみあうよう精進を重ねる所存であります.

今回評価して頂いたポイントに,テーマの独自性と,理論と実証の両面をカバーしているということがありました.実際,私の研究手法は理論と実証をいったりきたりしているのですが,それは情熱や計画した結果そうなっているというよりも,単にひとところに留まれないという性格の問題のように思います.

おもいかえせば,名古屋大学の情報文化学部という文理融合・学際型の学部で研究生活のスタートをきりましたし,大学院では,指導教員の井原泰雄先生曰く「辺境の学問」である(そして某人類学教授によれば彼女が逃げていく)人類学に身を投じました.研究テーマも,ヒトにはさまざまな側面があるにもかかわらず,ヒトの生物的な側面と文化的な側面の境界を選ぶ傾向にあります.意図してきたわけではないのですが,どうも私は,気がつくと境界や辺境に身を置いている人間のようです.

そうした性分のせいか,これまでの私の研究はほうぼうに発散しており,体系化するには程遠い惨状で,今回の発表にもそれが滲み出ていたと反省しているのですが,(おそらくそんな私の怠慢への叱咤を含みつつも)それでも選んで頂けたのは,多様で複雑なヒトを対象にしている学会だからこそではないかと感じております.まったくもって無責任ではありますが,今後も,辺境の地に旗をたて,ヒトが集まってくる前に新たな荒野へと旅立つような研究人生を送っていければ幸せだと考えております.

最後になりますが,運営にあたって下さった方々に,素晴らしい大会と食を支えて下さったことを,この場を借りて心よりお礼申し上げます.本当にありがとうございました.


若手ポスター発表賞: 中嶋智史・請園正敏・高野裕治「ラットも他者の痛みが分かります—実験室ラットにおける痛み表情の認知能力の検証—」

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ポスター発表当日の朝,突然体調を崩し,妻に付き添われてホテル近くの病院まで行く羽目になりました。もう発表は無理なんじゃないかと思いましたが,点滴のおかげかなんとかキャンセルせずに発表することができました。

今までこのような賞とは無縁でしたので,成果が認められたことが純粋に嬉しいです。今年の春から研究対象をヒトからラットに変え,新しいことに挑戦してきた甲斐がありました。これまでとは手法が異なるため,いまだに試行錯誤していますが,ヒトとラットの興味深い類似点を発見しては刺激を受ける日々を送っています。

こうして受賞できたのは,共同研究者の高野さん,請園くん,そして僕を(病院まで)支えてくれた妻のおかげです。この受賞を糧として,今後も良い研究を行っていきたいと思います。本当にありがとうございました!


若手ポスター発表賞: 豊川航・亀田達也「インターネット上の頻度依存的同調と群衆行動」

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このたびは、若手発表賞という名誉ある賞を賜り、大変光栄に存じます。すばらしい大会を運営してくださった実行委員の皆様、ならびにHBES_J関係者のみなさまに、心より感謝申し上げます。

思えば私が研究者に憧れたきっかけは、高校の図書館で手に取った「進化と人間行動」でした。高校のカリキュラムでは博物学的にしか学べなかった生物学の知識から、かくも有機的に人間が理解できるものかと、大興奮したのを覚えています。ヘレン・ケラーのように「ウォォーーターーー!」と絶叫したくなりました。最近ちまたでは、行動生態学はオワコンか?などと囁かれておりますが、私は決してそう思いません。ヒトの行動や社会には、行動生態学(あるいは、行動科学)の面白い謎がまだまだ沢山あるように思います。私もいつか、誰かを「ウォォーーターーー!」と叫ばせるような研究をしてやろうと、戴いた賞状を眺めながら決意いたしました。